不動産投資
家賃滞納に時効はある?滞納家賃を回収する方法や予防策も紹介
賃貸経営において、入居者による家賃の未払いや家賃の滞納は、空室よりも大きな手間やリスクであると考えられています。また、家賃滞納には時効があり、きちんと手を打ち、対策を講じなければオーナーは泣き寝入りするしかないといった事態に陥る危険性もあります。
家賃滞納における時効や滞納家賃回収の進め方、時効にさせない方法などについて紹介します。
目次
家賃滞納を放置してると時効で消滅する
家賃を払ってもらえないまま放置していると消滅時効が完成してしまい、その後は家賃の請求ができなくなってしまいます。
家賃の時効は5年
家賃の消滅時効は5年です。
2020年4月1日に改正民法が施行され家賃には民法第166条1項が適用されるためです。
改正前は民法第169条に規定されていたものが廃止され統合されました。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
e-GOV「民法」より
家賃は年金や離婚後の養育費などと同じように一定期間ごとに支払い義務が発生します。このような義務が発生する基本的な債権を「定期金債権」といい、一定期間ごとに発生する月々の家賃などの債権を「支分権」あるいは「定期金債権」と呼んでいます。この基本の債権は10年で消滅時効にかかります(民法第168条)。
このように「家賃」には多くの場合月ごとに支払う契約になっている月ごとの賃料と、月ごとの家賃を発生させる賃貸借契約にもとづく基本的な定期金債権との2段階で構成されています。
消滅時効
消滅時効とは、一定期間行使されない権利をなかったものとして消滅させる制度です。
権利を行使できることを知っていながら又は行使できるのに行使しないまま長期間放置していると、いつまでも法令的に安定しないため5年あるいは10年で区切りをつけようというものです。
家賃(支分権)の消滅時効はそれぞれの支払期から起算されます。
支払期から5年経過すると消滅時効が完成します。毎月支払う契約になっている場合には、たとえば1月分の家賃は5年後の1月の経過により、2月分の家賃は5年後の2月の経過により、順繰りにそれぞれの家賃が消滅時効にかかっていくことになります。
時効の援用
消滅時効の期間が経過したことによってその債権が自動的に消滅するのではなく、支払い義務がある方(債務者)が時効を「援用」することではじめて時効により消滅することになります。
時効の援用とは、時効の利益を受ける方がその利益を受けることを表明し時効の完成を主張する意思表示です。つまり時効が援用されなければ消滅時効の期間が経過しても債権(家賃の請求権)はなくなりません。
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時効を防ぐ滞納家賃回収の進め方
滞納された家賃を回収しないまま放置していると、時効により請求できなくなってしまうため、時効完成前に回収しなければなりません。
では、時効の完成をとめて滞納家賃を回収するにはどのような方法があるのでしょうか。
時効の完成を止める方法
時効の完成を止めるためには、時効の進行を停止させ、時効の完成を遅らせる手段をとります。
時効の完成は「完成猶予」と「時効の更新」によって止まります。
完成猶予
下記のような猶予事由が生じた場合には時効の完成が猶予されて完成時期が先延ばしされます。
- 裁判上の請求
- 強制執行
- 仮差押・仮処分
- 協議を行うことの書面による合意
- 催告
- 天災事変による裁判上の請求や強制執行が不可能な状態
時効の更新
一定の事由が生じたときには時効の進行がリセットされその時点から改めて時効期間が進行することになります。
- 判決などの確定
- 強制執行の終了
- 債務の承認
借主が「債務の承認」をすれば、費用も時間もかからず時効の進行がリセットされるため、最もよい方法です。
承認した事実と日付が重要になるため、必ず書面で承認した事実を残しておきましょう。
また、滞納している家賃を支払ってくれれば承認したことになります。滞納している家賃の一部を支払ってくれた場合には、古い家賃から充当していくようにしてください。
たとえば、1月からずっと未払いの状態が続いて12月に1か月分の家賃の支払いがあった場合には、12月分の家賃が支払われたことにするのではなく、1月分の家賃が入ったように処理をします。月々の家賃の時効はそれぞれの月ごとに進行するので古い家賃から消滅時効が完成していくためです。
家賃督促から回収まで
具体的に未払いの家賃を回収するには、家賃を支払うように督促をすることから始めます。
督促をすることにより未払い家賃の時効の完成を止めることができます。
督促はまず口頭で話し合い、支払ってくれれば問題ありません。しかし、なかなか支払ってもらうのは難しいかもしれません。
その場合には、内容証明郵便を相手方に送ります。
それでも支払ってくれなければ裁判上の請求をすることになります。
支払い請求の裁判上の請求は、
- 支払督促
- 裁判
となります。
支払督促や家賃支払いの判決が確定するとその記録が「債務名義」となり、債務者(借主)の財産に対して強制執行ができるようになります。
強制執行により、債務者の財産から直接未払い家賃の回収をすることになります。
- 給料債権の差押
- 預金口座の差押
- 動産などの差押
などの方法によります。
気を付けなければならないのは、せっかく確定判決になり強制執行ができるようになっても債務者に回収できる財産がなければ費用だけがかかって得るものは何もない、ということです。
そのため、家賃の未払いが発生すればなるべく早く回収すること、未払いの状態が続いていればなるべく早く賃貸関係を解消することが重要です。
賃貸関係を終了させる
家賃の未払いが続いているようであれば、早めに賃貸関係を終了させるのが回収策としてはベストです。
家賃を支払う能力があるのに家賃を支払わない入居者は少なく、せっかく確定判決をとり強制執行をしても賃借人に財産がなければ未払い家賃を回収できる望みは少ないからです。
ただし、いくら早く賃貸関係を終了させたいからといっても家賃を1か月分滞納しただけでは賃貸借契約を解除することはできません。
裁判所に対して家賃滞納を理由に賃貸借契約解除建物明渡の請求をするためには、少なくとも6か月間の滞納が必要だとされる場合がほとんどです。
3か月程度の家賃を滞納したときは、まず話し合いで解決できないか問いかけてみましょう。
それでも応じないときには家賃督促の記録を残すために支払督促を内容証明郵便で送り、それでも支払わないときには裁判上で請求していくことになります。
家賃が未払いであることは容易に証明できるため裁判自体は家主が勝訴する確率が高いのですが、難しいのは実際に建物を明け渡してもらうことや滞納家賃を回収することです。
勝訴しても明渡までが困難
賃貸借契約解除・建物明渡の裁判が家主の勝訴で終わっても借家人がすぐに出ていってくれることは少なく、明渡の「強制執行」を行わなければならないことも少なくありません。
中には家財を残したまま借りた部屋に帰ってこないようになる入居者も存在します。しかし、帰ってこないからといって勝手に家財を処分するのは違法です。
家財の処分をするためにも強制執行が認められなければならず、この手続きにも費用と期間がかかります。
また、勝訴判決を得て明渡の交渉をする中でも未払い家賃を支払わず、そのうえ引越費用まで要求されることもあるため、明渡までは相当困難が伴うものだとの理解が必要です。
家賃滞納のリスクからは逃げられない?リスクから解放される
以上のように家賃を滞納する方がいれば回収まで相当な費用と時間がとられてしまいます。
しかし、賃貸経営では、少なからず家賃滞納のリスクが発生します。家賃滞納を防ぐにはどのような方法があるかを解説します。
家賃滞納を防ぐ方法
家賃の滞納を未然に防ぐには以下のような方法があります。
まずは賃借人本人の支払い能力を確認すること、次に本人以外から回収できる方策をとっておくことです。
- 入居者の審査をきちんと行う
- 連帯保証人をつけて契約する
- 家賃支払いを銀行引落やカード払いとする
- 家賃保証会社をつける
- 生活保護を受けている方については直接役場・役所から入金してもらう
家賃保証会社を利用する
家賃保証会社と契約しておくと家賃の未納があっても保証会社が立て替えて払ってくれるので安心です。
以前は親や親戚・知人などが連帯保証人になって賃貸契約をすることが多かったのですが、近年では親戚や知人などには頼みにくく、親も高齢であったり無職だったりと連帯保証人になってくれる方を用意するのが難しくなっています。
家賃保証会社では、未払いの家賃を立替払いしてくれるだけでなく、契約内容によっては賃借人から回収できなかった原状回復費用や鍵を交換する費用などを支払ってもらえるので安心です。
賃借人にとっては、家賃保証会社と契約をすれば別に連帯保証人を用意しなくても借りられるので気軽なことや入居審査が通りやすくなるメリットがあります。
投資物件の売却に強い不動産会社に相談する
家賃の滞納があれば回収するまで費用や手間がかかることがわかったと思います。
賃貸経営をする限りはいくら滞納を防ぐ手立てをしていても一定数の滞納はでてしまうものです。
投資目的で購入や新築をした物件も当初は満室だったものが次第に空き室がでてきてしまい、そのうえ家賃を滞納する方がでてきてしまったら気苦労は絶えません。賃貸経営を重荷に感じてしまうようなことがあれば売りどきかもしれません。気苦労から解放される究極の手段は賃貸物件の売却だからです。
そのようなときには、賃貸物件の売却に詳しい不動産会社に相談してみましょう。賃貸経営から売却まで納得のいくまでこたえてくれるでしょう。
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